2019年10月、それまで世の中に存在しなかった、まったく新しいコンセプトのカメラが発売されました。

SIGMA fp です。

発売すぐ購入し、すっかりその魅力にとりつかれています。ですが、なぜSIGMA fp で撮影することがこんなに楽しいのか、うまく言語化できずにいました。そんな折、SIGMA fpフェス 2020春 というイベントに参加させていただきました。

安藤剛さん(@goando)のゲスト講演(SIGMA fp が変える世界|Go Ando / THE GUILD|note)を聴いて、大いに共感するとともに自分の思いの輪郭が見えてきました。考えを書き留めていきたいと思います。

不便益

SIGMA fp の何が、こんなにも魅力的なのか?
思い至ったのは「不便益」という言葉です。

不便益。馴染みの薄い言葉かもしれません。
京都大学の川上浩司教授らが提唱している概念です。(※ ご所属に誤りがありましたため修正しました。2020/02/27)その定義を引用しますと、

不・便益ではありません。不便の益 (benefit of inconvenience) です。
不便で良かったこと、ありませんか?
便利とは,手間がかからず,頭を使わなくても良いことだとします. そうすると,不便で良かった事や,不便じゃなくちゃダメなことが,色々と見えてきます.富士山の頂上に登るのは大変だろうと,富士山の頂上までエレベーターを作ったら,どうでしょう.よけいなお世話というより,山登りの本来の意味がなくなります.[from 不便益って?|不便益システム研究所]

さて、SIGMA fp の何が不便だと感じたのか?
それらはどんな益を生んだのか?

公式サイトを読むと、SIGMA fp は3つのコンセプトを実現する革新的なカメラとあります。

  1. Pocketable Full-frame
  2. Scalable
  3. Seamless

たしかにこれらを見事に実現しているのですが、そのため他のカメラが当たり前に搭載している機能を潔く捨てたり、外部に切り出したりしています。

まず、エントリーレベルのデジカメやスマホだって搭載している手ぶれ補正機構を、SIGMA fpは搭載していません。うっかりスマホのように撮ろうとすると、容易に手ぶれします。カメラを正しく構えて撮らざるをえない場合が増えます。
レンズを左手で下から添えて両脇を締めてカメラを持ちます。ビューファインダーも備えていないので、頭蓋骨を支点にできません。手ぶれが起こらないように慎重に、呼吸を整えて、写すべきその一瞬を待ち構えます。

次に、軽量性を重視して物理シャッタを搭載していません。つまり電子シャッタのみでの撮影となります。電子シャッタは移動体に弱いし、特に屋内撮影ではシャッタ速度に注意しないと、フリッカ(縞模様)が発生します。F値、ISO感度、シャッタ速度、輝度補正といった各パラメータのバランスを整えて、さらに手ブレも抑えてからでないと、まともに撮影できません。

さらに、SIGMAの愛好者が口酸っぱく言う「Foveonセンサーではない」という点も挙げられます。当然、FUJIFILMのX-transセンサでもないわけで、搭載しているのは一般的なベイヤ型センサです。ローパスフィルタレスでもあります。このため色は補間されますし、色モアレが発生する場合もままあります。

「Scalable」とは「変幻自在の拡張性」ということで、実際、動画のとおり、かなり高いハードウェア拡張性が提供されています。被写体を見つけてからカメラを構えるまでの間に各パラメータをどう整えるかだけでなく、そもそも持ち出す前にどんな装備にするかといった事前計画まで存在する(しかもその変数域がかなり広い)のですから、脳がさばききれないほど変数が多ければ、その確定に時間がかかります。

ことほど左様に、SIGMA fp は現代のカメラとしては手のかかる機種だと思います。

成長という益

しかし、思うのです。
これは「SIGMA fpに育てられているのではないか?」と。

自動車に例えると、MT車が最高でAT車はダメだ、と言っているわけでは無いのです。AT車だけしか運転したことがないという状況ではドライビング技術の更なる向上は難しいので、MT車で技術を磨くべきではないか、と申しているのです。

「型無しと型破り」の概念にも通じるものがあるでしょう。
また「守破離」にも近いかもしれません。
他にも「無知の知」や、「学習ステップの4つのA」なども挙げられます。

私は写真撮影において、AT車しか乗ったことがない、補助輪付きでしか自転車を漕いだことがない人間だったのです。SIGMA fpと共にクラッチを切り替える感覚を学び、ふらつき転ぶ体験を通して、シャッタを切るその一挙一投足、裏側に潜む事象を意識できるようになりました。シャッタの役割は何か。センサは何を捉えているのか。モアレは何故発生するのか。そもそも、光を捉える写真とは科学的に何が起きた産物なのか。一連の現象の原理原則を、実体験を伴って学んでいます。

シャッタを切るたびに学習が加速します。カメラの扱い方や構え方、呼吸の整え方といった姿勢も身についていきます。デジタルカメラの仕組みや得手不得手というものを、骨身にしみて体感するのです。

写真を撮る行為の奥深さを学ばせてくれたのがSIGMA fpなのです。

なお、AT車にも利点は多いわけで、MT車を理解したあとならば、素早く適切に乗り分けられるように成っていると期待できます。掌握した選択肢が広がれば、自分や環境に適した策を打てるようになります。

SIGMA fp はその Scalablity の高さゆえに、カスタマイズすれば上述のデメリットはだいたい回避できます。例えば、手ぶれ補正付きのレンズを装着すればいいですし、ビューファインダもオプションでつけられます。フリッカ抑制機構もありますし、三脚を使うなりライティングを気をつけるなりすれば、フリッカは避けられます。

今はまだ、自分に補助輪がついていたんだと認識して、やっと片方の補助輪を外せそうかな?というレベルです。このSIGMA fpとともに、私はまだまだ成長できるのだ、とワクワクしています。(電子シャッタの特性を生かした表現も楽しそう、と最近考えています。)

最後に

不便益 という観点から SIGMA fp への愛をまとめてみました。

安藤さんは SIGMA fp の特徴の1つとして透明感という言葉を挙げています。SIGMA fp のインタフェースは素晴らしく、たしかに様々なノイズが可能な限り取り除かれています。被写体と自分の間からカメラの存在は微かとなり、撮る・撮られるという行為や意図に集中できます。そして「今だ捉えよ」と小さい筐体が諭してくれている気がするのです。不便であっても、よき指導者であり、よき相棒である、優れたインタフェースであることが大切です。

カメラはスマホで十分だという人も増えてきた現代において、撮影する一連の動作を意識させられるカメラが発売されたということは、重要な事ではないでしょうか。

そもそもの大前提として、画が好きになれなければ、付き合っていきたいと思う魅力がなければ、転んでも立ち上がってまた挑戦する意欲は沸きません。

この点において、もう完全に一目惚れなのです。筐体の美しさや軽さも筆舌に尽くしがたいものがあります。撮ってよし、持ってよし、そうでないと日々持ち歩いて成長することはできません。

SIGMA fp で撮影した、最近のお気に入りの写真を載せておきます。

みなさまも、SIGMA fp をどこかで手にとって撮ってみてください。その体験にきっと恋に落ちてしまうことでしょう。